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最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)1854号 判決 2000年7月07日

上告人 京都市

右代表者市長 桝本頼兼

右訴訟代理人弁護士 彦惣弘

被上告人 才木藤雄

右訴訟代理人弁護士 仁井谷徹

同 岡惠一郎

主文

一  原判決中、上告人の予備的請求に関する部分を破棄する。

二  前項の部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

三  上告人のその余の上告を棄却する。

四  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人彦惣弘の上告理由第二の一ないし六について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

二  同第二の七について

1  原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(一)  上告人は、平成三年三月二六日、樹創建設株式会社に対し、都市計画法八一条一項、京都市風致地区条例八条一項に基づき、第一審判決別紙物件目録(二)記載の各建物の除却命令を発し、同年一一月一三日から二一日までの間に、行政代執行法二条に基づき、右除却の代執行をした上(以下「本件代執行」という。)、同四年三月一三日、同社に対し、同法五条に基づき、同月二六日までに本件代執行に要した費用二六八二万二六三八円を納付することを命じた。

(二)  被上告人は、平成二年三月二三日、大創サービス株式会社に対する一億五〇〇〇万円の貸金債権を担保するため、同社が所有する大津市内の三筆の土地に譲渡担保権の設定を受けた。被上告人は、同四年二月一四日、同社の求めに応じて右譲渡担保権設定契約を合意解除し、これに代わる担保として、大創サービスとの間で、同社所有の京都市内の七筆の土地に譲渡担保権を設定する旨の契約を締結するとともに、樹創建設との間で、同社所有の第一審判決別紙物件目録(一)(7)記載の土地(以下「本件土地」という。)に譲渡担保権を設定する旨の契約(以下「本件譲渡担保権設定契約」という。)を締結し、同年三月九日、本件土地につき所有権移転登記手続を経由した。

(三)  樹創建設と大創サービスは、代表取締役、本店所在地及び従業員を同じくし、営業面や資金面において密接な結び付きを有している。

(四)  樹創建設は、平成三年八月の決算期に九七七〇万八〇〇〇円の損失を計上し、同四年六月ころには、金融機関に対して約三億九八〇〇万円の負債を抱えながらさしたる資産もない状況に陥り、同年七月四日、株主総会の決議により解散した。

2  本件のうち上告人の予備的請求は、樹創建設に対する代執行費用債権を保全するため、詐害行為取消権に基づき、同社と被上告人との間の本件譲渡担保権設定契約を取り消し、被上告人に対し、本件土地についてした所有権移転登記の抹消登記手続をすることを求めるものである。原審は、右事実関係の下において、本件譲渡担保権設定契約締結の経緯や樹創建設と大創サービスとの密接な関係を考慮すると、本件譲渡担保権設定契約により樹創建設の責任財産が減少したとは認め難いから、本件譲渡担保権設定契約の締結は詐害行為に当たらないとして、上告人の予備的請求を棄却した。

3  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

債務者が残余の財産では債権者に対して十分な弁済をすることができなくなることを知りながら第三者に対して自己の財産に譲渡担保権を設定することは、それが債務者と密接な関係を有する関連会社が所有する財産に設定されていた右第三者の譲渡担保権の解消と引換えに行われた場合であっても、詐害行為として取消しの対象となると解するのが相当である。なぜならば、債務者と関連会社とが別個の法人格を有する以上、関連会社所有の財産が当然に債務者の責任財産になるわけではなく、譲渡担保権の設定によって債務者の責任財産の減少という結果が発生したことを否定できないからである。

これを本件について見るに、前記認定事実によれば、上告人が本件代執行により代執行費用債権を取得した後、樹創建設は、被上告人の大創サービスに対する貸金債権を担保するために本件譲渡担保権設定契約を締結したというのであるから、樹創建設が上告人に対して十分な弁済をすることができなくなることを知りながら右契約を締結した場合には、上告人はこれを詐害行為として取り消すことができることになる。

4  そうすると、原審の前記判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人の予備的請求を棄却した部分は破棄を免れず、本件においては、予備的請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右破棄部分につきこれを原審に差し戻すのが相当である。

三  以上のとおりであるから、原判決中、上告人の予備的請求に関する部分を破棄して、右部分につき本件を原審に差し戻すこととするが、上告人のその余の上告は理由がないから、これを棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梶谷玄 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)

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